『介護食の備蓄食』について、
医療法人社団 静実会 ないとうクリニック 在宅訪問管理栄養士 伊藤 清世先生にお話を伺いました。
今やライフラインが寸断されるような災害は年に1度のペースで発生していますが、皆さんはどんな備蓄食を準備しているでしょうか。
災害時は発災直後の食と、被災生活時の食を分けて考えることが必要です。
発災直後は利用者も支援者も混乱の状況が予想されます。そのような時にはひとり1個ずつ配れるもの、封を開けてすぐ食べられるもの、栄養が豊富なものが望ましい食料です。反対に、その後数週間にわたる被災生活時に必要なものは食べなれたもの、温かいもの、ちょっと足すだけで栄養バランスが整うようなものと、前者とは異なります。
今回は嚥下機能が低下した方のための備蓄食について、提案してみたいと思います。ただし、災害の種類や施設の状況によっては当てはまらないこともあるかと思いますが、考え方のひとつとしてお話しします。
嚥下機能が低下した方の備蓄食は常食と違い、準備が難しいものですが、実際の災害時には最もニーズが高いように感じられます。
私は東日本大震災を病院で経験しましたが、自治体から配布される食糧はおにぎりや菓子パン等が多く、嚥下機能が低下した方が食べられるものはほとんどありませんでした。
嚥下機能が低下した方はもともと食べる量が少なかったり、栄養状態が低下している方も多く、災害時に食べるものがさらに少なくなると急激に栄養状態が悪化する可能性もあります。そのため、災害時には嚥下機能が低下した方への食事の配慮が必要です。
といっても、場所や費用の問題などからすべての食種の備蓄食を準備するのが難しい場合もあると思います。
そこで、このようなポイントで介護食の備蓄食を考えてみてはいかがでしょうか?
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そのまま封を開けて食べられるもので、多くの食種に対応できるものを準備する
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2食種の献立で準備し、その場で調整できる技術を身に付ける
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自然解凍で食べられる冷凍のUDF商品を準備する
「そのまま封を開けて食べられるもので、幅広い食種に対応できるもの」
具体例としては、ゼリー飲料やデザートになるようなゼリータイプの栄養補助食品です。
ゼリー飲料の場合は水分補給にもなるため、濃厚なものよりはさっぱりしたものを準備し、ゼリーやプリンタイプのものは、おやつやデザートに使いやすいような味の製品を選ぶことをお勧めします。
液体タイプの栄養補助食品でも良いのですが、水分にとろみ付けが必要な方の場合、とろみをつけるという作業が加わるため、あまり手をかけることのできない時期には対応が難しくなることもあります。
「2食種の献立で準備し、その場で調整できる技術を身に付ける」
「常食~歯ぐきで噛める」食種で3日分、「舌でつぶせる~かまなくてもよい」の食種で3日分の準備をします。舌でつぶせる区分のものを準備し、そこにマヨネーズやサラダ油などの油脂や、牛乳などの液体を加えることで「かまなくてもよい」の形態に近くすることもできます。
「自然解凍で食べられる冷凍のUDF商品を準備する」
常温で備蓄できるレトルト食品やカップのムース食などは便利ですが、献立にうまく組み込めずに使い切れないことはありませんか?
冷凍のUDF商品であれば、普段の献立に組み込むことができます。その商品をローリングストックすることで、保管スペースを気にすることなく災害時にも食べなれたものを提供することができます。また、舌でつぶせる~かまなくてよいに相当する方の備蓄食として「冷凍のムース弁当」を準備するという方法もあります。ムース食の種類を多くそろえるよりも弁当になっていれば1袋で様々な種類の食材が器に入っており、あんもかかっているため、調理や盛り付けの手間がありません。この食形態に相当する方が多い施設では難しいかもしれませんが、人数が少ない場合にはよいのではないでしょうか。
惣菜シリーズ ※自然解凍可能な商品です。
冷凍のムース食弁当『やさしいおかずセット』※加熱調理が必要な商品です。
いずれにしても、準備する段階でしっかりと栄養士やケアに携わるスタッフが試食をしておくことが重要です。
賞味期限の長さや、栄養素がたくさん入っている、少量高エネルギーなどに目を向けすぎると普段食べなれたものと味が大幅に違ったり、備蓄食の買い替えの時期に食べにくさから使い切れないこともあります。
味だけでなく、嚥下機能に対しての配慮も必要です。自然解凍で食べられるUDFの冷凍食品の場合は自然解凍してどんな食感なのか、硬さはどうか、などを確かめておきます。
普段から災害を意識することは難しいのですが、今ある食材を食べる場面で調整する技術や、簡単に調理できる方法などは日々の食事場面でも役立つものです。
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